落語を文字に起こす

 こんにちは、瀧川鯉丸です。

 落語の言葉は大きく分けると二つ。会話の部分と地の部分。多くの速記本だと、いわゆるセリフ部は「」かぎ括弧で囲ってあり、多くの文章と同じように句読点が打たれている。…のだけど、僕は「なんか邪魔だな」と思ってしまう。小説と同じように、頭が「読む」モードになってしまうというか。だからここ数年、それら記号をつけないで文字だけで書いてきた。

…八五郎が隠居さんとこへ遊びに行くと 噺の幕が上がりまして…

こんちはッ 隠居さんいますか
はい… おォ誰かと思ったら八っつぁんかい どうしたィ今日は 仕事はもういいのかい
エェ今日は半ちくンなっちまってね 隠居さんとこで 莫迦ッ話の一つでもしようかと思ってね…

 地の語りと科白がごちゃごちゃじゃないかと思われるだろうけど。誰に見せるわけでもなし、自分が判ればいいのだから。

 …と思っていたんですが、こないだ明治時代の講談速記本を見せてもらったら。なんとなんと。かぎ括弧の端っこが閉じられていない。どんどん書き取るときにいちいち閉じてる暇なんかないわけで、ここから別の科白ということが判りさえすればいいってことかな。

 これがヤケに気に入ってしまって、最近は真似っこしています。

…八五郎が隠居さんとこへ遊びに行くと 噺の幕が上がりまして…

「こんちはッ 隠居さんいますか
「はい… おォ誰かと思ったら八っつぁんかい どうしたィ今日は 仕事はもういいのかい
「エェ今日は半ちくンなっちまってね 隠居さんとこで 莫迦ッ話の一つでもしようかと思ってね…

 科白として閉じていない、固まっていないのが素晴らしい。

 落語の言葉は別に決まった科白じゃないわけで、日常の会話がずるずると延びていくもの。かぎ括弧が閉じられてないと、何かもうひと言言ってやりたくなるような気分になりませんか。