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師匠 瀧川鯉昇の本『鯉のぼりの御利益』が出ます

暗い夜道を歩いて家に帰ると、「東京かわら版」さんから分厚い郵便物が届いてました。

え、なんだろうと思いながら封を開けると、師匠、瀧川鯉昇の著作が入っていました。題して『鯉のぼりの御利益』あす発売の新刊です。えっ、って、驚きました。師匠が本を出すなんて全く知らなかったから。弟子のくせに。師匠がいくつもの出版物に紹介されたりインタビューを受けている文章は読んでいましたが、師匠の単著は初めての出版。

しかも、同封の編集部の方からのお手紙を読むと、この本のなかで一門の弟子への言葉も綴られている、とある。いきなり好きな人からの手紙が来たみたい。いつも「ああしなさい」「こうしなさい」ということは一切言わない師匠ですから、どんなメッセージだろう、だいぶドキドキしながら、ふわふわとした気持ちで読み始めました。

で、さっき読み終わったところ。読み終わって、しばらくぼーっとしていました。

なんだろう。

読んでいる間、浮かんでくる風景がずーっと、夜でした。

この本では、師匠の生い立ちから芝居に心奪われた学生時代、入門をするまでの苦労、入門してからのもっともっと大きな苦労、二人の師匠のこと、落語の噺のこと、お世話になった方々のこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、いつも思っていること、そして弟子への言葉。うちの師匠を形作っているものが、装飾されることもなく、かなり”素のまんま”文章になっている。師匠のモノローグがそのまま活字になっている感じ。ぼくが師匠から聞いたことのある話も多かったし、その中でも、弟子にもここは話していなかったな、という場面もある。

こういう、師匠の思いを帯びているはなしを聞くのは、いつも落語会がはねて打ち上げも終わったあと、帰りの電車の中が多い。師匠の故郷、静岡県におともすることが多いので、このはなしは帰りの「こだま」の中で聞いたなあとか、そんなことを思いながら読んでいたら、心の中が夜でした。

師匠のことばの選び方、跳び方、運び方が好きで入門したんですから、そんな師匠の文章ですから、ずっと直球ストライクがズバンズバンと入る感覚で読みました。

そして内容も。

生まれた町の空気、寄席までの電車賃、お世話になった寺の住職の親戚の名前、本当によくそんなこと覚えてんなってことがたくさん出てきて。それは単なる情報ではなくて、師匠の身体の中に手ざわりが感じられるほど残っていることなんでしょう。焼酎の値段と、あの夜、八代目春風亭小柳枝師匠の一言が一緒くたになって入ってる。

師匠は弟子につねづね、「最後は、じぶんの感性だから」と言います。教えられたことを鵜呑みにしても駄目、じぶんで気づかなきゃ意味がないんだよって。このことばは本当に師匠の実感から出たことばなんだなって、この本を読んで分かります。

師匠は、夜道を灯すお月さまのようです。

この本に書かれていること、神棚に飾ることなく、いつも懐に入れて日々を生きていきたいと思います。

……。弟子がじぶんの師匠の本に対してこんなふうに書くのは、子供が「うちのとうちゃん、えらいんだよ」って言ってるみたいで気後れしますが、いい本です。素敵なことばがぎゅっと詰まってます。本日発売。ぜひ読んでください。

「東京かわら版」編集部の皆様、ありがとうございます。

明日からまた、もがきます。